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Part 5
NEXOは30年の歳月を経て待望の射出成形キャビネットをモジュラーラインアレイ、STMシリーズとして世に送り出しました。そしてこの10年間に渡って木製から射出成形ポリウレタンキャビネットに移行してきました。R&DディレクターのJoseph Carcopinoが技術的な可能性と工業技術間の関係と、両者のバランスが創造的な設計手順にどのように影響するかについて説明します。
“私たちの知的財産である一連の作業(音響的、機械的特許など)は継続的に成長しています。しかし、これらの理論的なアイデアの実装(物理的なコンポーネントへの落とし込み)も、絶えず変化する状況です。
“90年代に遡りますが、手動成形技術を大型のポリエステルパーツに使用したAlphaシステム、その後ポリウレタン注入技術を使用したウェーブガイドのGEOシステム、高圧注入技術を使用したホーンのPlusシリーズ、とそれぞれの異なる技術を採用して音波の成形に活かしてきました。そしてこれらは今後も進化していきます。
以前はプロトモデルでも金型から製作する必要があるなど、制約が多かった射出成形ですが、現在は連続炭素繊維や3Dプリンターを使用してプロトモデルの製作が可能になったので、新たな次元を切り開くことが出来ます。これにより、パーツ成形の制約がほとんどなくなるため、パーツ設計に対する考え方が大きく変わります。
“我々は次世代の製品に何がベストなのかを考えながら、同時に産業資源をどのように活用することがベストなのかも考慮する必要があります。射出成形技術が可能になった時期、Alphaシリーズの時代ですが、工場も変化する必要がありました。
そのためNEXOは、Limoges近郊のSaint Pierre deCôleを拠点とする独自の射出成形産業施設を正式に買収し、そこからParis近郊のPlaillyにある主要工場に部品を供給しています。
“GEOシリーズの初期のモデルのキャビネットは主に木製で、プラスティック部分は非常に限られていました。我々は独自のノウハウとニーズに対して工場の資源を最大限活用して屋外での使用に適した製品(木製は最適とは言えません)を作るため、射出成形キャビネットへと移行しました。”フラッグシップモジュラーラインアレイ、STMシリーズを発売した2011年以降を境にGEO M6, M10とM12の3つのラインアレイ、これらは全て射出成形技術を使用したエンクロージャーです。
NEXOは最新のポイントソースとモニターキャビネットPlusシリーズでは木製のサプライヤーに戻りました。Josephはこの設計に踏み切った理由を技術的、マーケティング的な側面から説明します。
“Plusシリーズのキャビネットは木製エンクロージャーの安定性や堅牢製を肌で感じるかのようなミュージシャンのすぐ近くで使用されます。彼らは木製は高価だと感じ、一方プラスティックキャビネットはチープな印象を受けます。
加えてPlusシリーズの場合、GEO Mレンジと比較するとリギングハードウェアをキャビネットに内蔵する必要がないため、サイズと重量に対する制約が大きく異なり余裕があるように思えるかもしれませんが、小型、軽量に仕上げなければならず、GEOのキャビネットで採用したハニカム構造を使用するためのキャビネット内のスペースは数センチもありません。そのためこの製品については曲げ加工した合板を使用することが最適なソリューションであると判断しました。”
(こちらをクリックするとNEXOの曲げ合板木製キャビネットの生産を紹介するショートムービーがご覧いただけます。※英語)
“木は自然の素材であるため個体差が大きく、キャビネットに使用することは結構難しいのです。プラスティックと比較した場合でも、湿気や雨、太陽光に対して木の強度は劣ります。
そのため我々はPlusシリーズでは、より使用時の周辺環境に耐えられるプラスティックの一種を使用した特別な塗料を採用するなどいくつかの対処方法を開発しました。木材については、接着やベニヤ等の技術は進化していますが、キャビネットという観点からすると今後劇的な進化があるとは思いません。
しかし、ホーンやウェーブガイドなどの音響パーツについては、新しい音響製品への扉を開くナノテクノロジーなどの新しい技術を使用して達成できることがたくさんあります。
これらを議論する中でNEXOの特許技術の1つであるV形状ポートをSTM M46とM28キャビネット用に開発しました。これは後にGEO M10とM12モジュールにも採用されています。このエンクロージャーにあるポートの開口は低域の周波数特性を拡張するために使用します。キャビネットのチューニング周波数では全体の音響エネルギーが開口から放射されます。
しかしながら一般的な開口だと周波数が高い方に向かって倍音(ハーモニクス)も放射してしまうことで軸上における周波数特性と指向性の一定性に影響を与えます。そのため奥行と形状を慎重にモデリングして開口にスロットを設けることでこれらの倍音を吸収するようにしています。
“恐らくこのような複雑な形状のポートを一般的な合板を用いて生産することは出来なかったでしょう。しかしながらこれをプラスティックに置き換えた場合には、複雑なV形状でも、簡素なポートでも同じコストで生産が可能です。このようなことにより、より良い性能を得るために我々の専門知識とノウハウを適用することで製品に余計なコストを掛けずに行うことができるのです。”
“生産技術の革新もそうですが、我々も頭の中で考えることに制約を持たないようにしないといけません!
経験豊富なエンジニアのスキルと直感がシステム設計への最も貴重なインプットであっても、我々の課題解決には、数学的、論理的あるいは物理的なアプローチには制約があります。機械的な基準を解決するには、正方形、円、六角形、またはその他の規則的な形状が必要になります。
しかしながら、もしコンピュータに最適なソリューションの答えを求めても(例えば、スピーカーコーンのような、機械的に不要な振動を無くして最適化しようとするような)境界要素技術に基づいた、コンピュータが提示するソリューションの「有機的」性質にきっと驚くことでしょう。このようなソリューションは人間の頭脳では思いつきませんので、コンピュータが”自然をシミュレート“して生み出される有機的な型を観察するのも面白いかもしれません。”